劇団解体社「ベベール年代記」
舞台「アングラの系譜と小劇場の今」の3本 より
クリス・グレゴリー
演劇を研究する目的で、去年の2月から1年東京に住みながら、時間とお金が許せる限り芝居を観た。アメリカ人として日本の演劇に対して興味を持ったきっかけは60年代後半・70年代前半で盛んだったアングラ演劇だった。学生紛争や安保闘争が時代背景だったアングラ演劇の反体制的な批評性と大胆なタブー破りの精神に惹かれた。だから、アングラ戯曲の上演やアングラの系譜を受け継いだ劇団をなるべく多く観ることにした。そのなかで最も印象に残った公演は1985年に結成された劇団解体社『ベベール年代記』だった。
清水信臣構成・演出の『ベベール年代記』は第二次世界大戦でドイツ協力者として知られているフランス人作家のセリーヌを題材にする3部作の第1部だ。セリーヌ夫婦と愛猫のベベールのデンマークへの逃亡を語りながら、帝国主義や愛国心を問い直す。作品の反体制的な批評性は迫力のある身体表現で支えられている。下半身パンツ一丁の石井康二さんが両手を組んで、ハンマーを力強く振るように太股をドカンと打ち続ける。そのような自他虐的な行為が執拗に繰り返される。肉体の限界を追求する出演者の苦しそうな動きと声が社会の歪みや狂気を現す。3作目の『夜の果ての夜』は3月末に上演されるので、ぜひ観ていただきたい。
クイック・ジャパン 2016.3.7/ vol.124