小空間にあふれる緊張感
今村 修
東京・本郷の住宅街の真ん中、細い路地に面してその建物はあった。人間の身体にこだわり続ける解体社が一昨年から拠点にしている本郷DOK.。清水信臣・構成・演出の新作「TOKYO GHETTO」は、観客が30人も入ればいっぱいになるこの小空間の特性を生かした、緊張感に満ちたパフォーマンスだ。
舞台には鉄パイプの足場が組まれ、さびれた工事現場とも貨物船の船倉とも見える。登場するのは、九人の女性と彼女たちを統率しているような二人の男性。現代日本の経済的繁栄とは無縁の、流れ歩く人々だ。演者たちは無表情のまま、舞踏の要素も取り入れた乾いた動きを続けていく。
唐突に女が倒れ、その体を男が荷物のように担ぎ上げる。むきだしになった肩や腿を、パーカッション演奏よろしく、リズミカルに平手でたたき続ける。見る見る皮膚が張れ上がっていく…..。
決して楽しいイメージではない。虚飾をはぎ取られた生の身体。生理的で痛々しいとさえ感じられるシーンが連ねられる。にもかかわらず、目をそらすことができない強い力を持った舞台だ。
言葉はほとんど用いられない。たまに発せられても、それはストーリーを了解させるようなものではない。その分、観客自身が想像力を働かせて作品世界に参加していくことが求められる。
性、支配、紛争、平和といった現代のキーワードとなる様々な単語が頭の中を駆け回る。
すりガラスや鏡などの小道具や映像を使った視覚的な工夫も効果を上げている。日野昼子、熊本賢治郎、中嶋みゆき、丸岡ひろみ、小杉佳子、森山雅子らが出演。照明・長谷川和弘、音楽・成井輝光。
12日までの金、土、日曜日に上演。
朝日新聞 (1995年3月3日)