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ユーロカズフェス 解体社に話題

西堂行人


十年目をむかえた「ユーロカズ・フェスティバル」が独立後まもないクロアチア共和国の首都ザクレブで六月に二週間にわたって行われた。

東欧圏では屈指の前衛演劇祭として知られる「ユーロカズ」では、一貫して新しいスタイルの演劇の追求が続けられてきた。十周年の今年は、前衛の巨匠ロバート・ウイルソンが開幕を飾り、今やヨーロッパでもっともクオリティの高いヤン・ファーブルの小特集が組まれた。「ユニバーサル・コピーライト1&9」と「彼女はかつて、そして今、さえも」の二作品が上演され、ほかにビデオ上映やディスカッションが行われるなど次代の中核を担う存在であることを裏付けた。

この演劇祭の特徴は、一九八〇年代に仕事を開始した三〇代、四〇代のアーチストを積極的に登用し、六〇年代以後の〈ポスト・メインストリーム〉を構築するところにある。この十年のプログラムには、ブルガリアの鬼才イバン・シュターネフやベルギーのローザスらそうそうたる顔触れが並んでいる。今回はスロベニアなど旧ユーゴ諸国からもいくつか参加しており、中でもマケドニア人の演出家のブランコ・ブレゾビッチの「エンマ」(ボルヘス原作)は、視覚的な要素をふんだんに盛り込んだ映像的な舞台として注目を集めた。舞台技術の進歩なくしてはありえない、"進化した演劇"である。

だが、このフェスティバルで最後に人気と話題をさらったのは、日本から参加した解体社の清水信臣演出「トーキョー・ゲットー」だった。冒頭、男優が女優の背中をたたき続ける衝撃的なシーンでは観客が本当に怒りだし、劇の進行が危ぶまれるほど騒然とした雰囲気が劇場を包んだ。にもかかわらず、この舞台は最後に観客をうならせた。日本の前衛的な小劇団が世界の先端的なシーンでは一層スキャンダラスでアグレッシブな演劇として認知されたのである。





朝日新聞 夕刊 1996年8月1日

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